作:NicolAi(Nico | AI : ニコライ)
この作品は、日々自作小説をAIに読ませているNicoが、プロットとプロンプトを作って生成したAI小説です。何故AIになったのかは、別の機会に。
反重力車は、地面から1メートル浮いて走る。
路面との摩擦がない分、速い。速い代わりに、少しの操作ミスで死ぬ。
機体の底部に積まれた反重力炉が車体を押し上げ、四隅の姿勢制御翼を使って車体を曲げる。時速400キロを越えたあたりから、人間が操縦しているというより、爆弾に方向を教えているのに近くなる。
そんなものを12台並べて走らせ、客は金を賭ける。
この街では、それをレースと呼んでいた。
カイ・バーンハートは、かつてその世界で2番目に速い男だった。38歳。今では港の外れにある寂れた整備工場で、酒を飲みながら他人の機体を直している。
「勝負ってのはな、始まる前に八割方決まってる」
カイは、宙に浮いたエンジンブロックをレンチで叩きながら独りごちた。
「誰の言葉?」
背後から声がした。
振り返ると、工場の入口に少年が立っていた。十二、三歳くらい。痩せていて、頬だけが妙に丸い。場違いなくらい明るい顔をしている。
「知らん」
「自分で言ったの?」
「多分な」
「じゃあ名言じゃん」
「うるせえ」
少年は笑った。
カイはその笑顔が嫌いだった。
別に少年そのものが嫌いなわけではない。ただ、こういう人間は苦手だった。誰にでも笑う人間。誰にでも話しかける人間。カイには、それが才能であるという発想がなかった。
「何の用だ」
「レース見てきた」
「だから?」
「乗りたい」
「帰れ」
「なんで?」
「死ぬから」
「おじさんも乗ってたんでしょ?」
レンチが止まった。
「誰から聞いた」
「隣。パン屋のおばさん」
「余計なこと喋りやがって」
少年は工場の奥を覗き込んだ。そこには、1台の古い反重力車があった。灰色のシートを被せられ、10年近く動いていない。
「これ、おじさんの?」
「触るな」
「速い?」
「昔はな」
「1位?」
「2位だ」
「すごいじゃん」
カイは眉をしかめた。
「2位は負けだ」
少年は少しだけ考えてから言った。
「でも、2位まで行ったんでしょ?」
「だから何だ」
「1位の次に速かったってことでしょ?」
カイは返事をしなかった。
子供の理屈は嫌いだった。
単純で、無遠慮で、時々こちらが何十年かけて積み上げた言い訳を簡単に壊す。
その日から少年は毎日来た。名前はノアと言った。学校が終わると工場に来て、勝手に床を掃き、部品を並べ、意味も分からないままカイの作業を眺めた。
「これは?」
「姿勢制御翼」
「これは?」
「燃料圧縮器」
「これは?」
「質問するな」
「質問しないと覚えられないじゃん」
「覚えなくていい」
「乗るから覚える」
「乗せねえよ」
そんなやり取りが一か月続いた。
折れたのはカイの方だった。
「1周だけだ」
「やった!」
「喜ぶな。吐くぞ」
街外れの旧テストコース。
カイは出力を20パーセントまで落とし、古い練習機にノアを乗せた。
「いいか。スロットルには触るな。浮上だけだ」
「レースでは使うでしょ?」
「今日は触るな」
「分かった」
「絶対だぞ」
3秒後、ノアはスロットルを押し込んだ。
「てめえぇぇぇぇぇぇえ!」
練習機は弾丸のように飛び出した。
第1コーナーで半回転し、第2コーナーで縁石すれすれを通り、第3コーナーで完全にコースを外れた。
それでもノアは笑っていた。
カイは通信モニター越しに怒鳴った。
「足だ、ブレーキ踏めっ!」
「届かないよっ!?」
「だから浮かせるだけって……」
「止まらないー!」
「赤いボタン! 脚の間だ!」
「これ!?」
「それはレバーだ! 引くな!」
「こっち!?」
「それだ! 押せ!」
ノアが押した。
機体が猛烈に前のめりになった。
「うわああああ!」
数秒後。
練習機は草むらの中で止まった。
ノアは鼻血を出して笑っていた。
「すげえ」
カイは頭を抱えた。
「お前、死にたいのか」
「もう一回乗りたい」
「ダメだ」
「楽しかった」
その顔を見た時、カイはなぜか昔を思い出した。
23年前。
自分が初めて反重力車に乗った日。
同じ顔をしていた。
その日から、カイはノアに操縦を教え始めた。
ノアには機械の才能がなかった。
何度説明しても反重力炉と推進炉を混同する。
電圧と出力の違いも怪しい。
工具の名前も覚えない。
しかし、運転だけは妙にうまかった。
恐怖心が薄い。
目がいい。
何より、車が滑り始めてからの反応が異常に速かった。
「お前、頭で考えてねえだろ」
「考えてるよ」
「嘘つけ」
「曲がれって思ったら曲がる」
「それを考えてないって言うんだ」
カイは酒瓶を傾けた。
「いいか。才能ってのは、理解できないものを褒める時に使う便利な言葉だ」
「それ誰の名言?」
「俺」
「また?」
「黙れ」
半年後、ノアは地域のレースに出場した。機体は廃車寸前だった。カイが拾ってきた部品を組み合わせた中古車。スポンサーなど当然いない。車体には傷を隠すために黒い塗料を塗っただけだった。
「勝てる?」
出走前、ノアが聞いた。
「無理だ」
「即答じゃん」
「機体が遅すぎる」
「でも走るんでしょ?」
「完走しろ。それで充分だ」
結果は4位だった。
ノアは最後尾から8台抜いた。観客席は大騒ぎになった。レース後、ノアは賞金より先に隣のピットへ走った。レース中、煙を吹き出して視界から消えた年上のレーサーを探しに行ったのだ。
「大丈夫だった?」
「……お前、今レース終わったばっかだろ」
「だって煙出てたから」
それを見ていた町の自動車屋が、翌日工場を訪ねてきた。
「昨日のガキ、面白かったな」
カイは嫌な顔をした。
「何の用だ」
「余ってる冷却器がある。使うか?」
「いくらだ」
「ただでいい」
「いらん」
「なんでだよ」
「ただより高いものはない」
横からノアが顔を出した。
「ありがとう!」
「おい」
「もらおうよ」
「お前は黙ってろ」
結局、冷却器はもらった。
次のレースでは、パン屋が小さなスポンサーになった。
その次は工具店。
その次は港の魚屋。
ノアは行く先々で人と話した。
レースの話。
機体の話。
将来の話。
本人は営業しているつもりなどなかった。ただ、自分が好きなものを楽しそうに話していただけだった。気づけば黒一色だった車体には、十を越える小さな企業のステッカーが貼られていた。
「ダサい」
カイは言った。
「かっこいいじゃん」
「統一感がねえ」
「でもみんな応援してくれてる」
「レースは人気投票じゃねえ」
「知ってる」
ノアは笑った。
「でも、応援されるの好きだよ、僕」
カイは返事をしなかった。
ノアは勝ち始めた。
地区選手権。
州選手権。
勝つたびに人が増えた。
メカニック志望の青年が工場を手伝うようになり、物流会社が部品輸送を引き受け、大学の研究室が試作の姿勢制御ソフトを持ち込んだ。昔カイと走っていたレーサーまで顔を出した。
「カイ、お前が人を育てるとはな」
「育ててねえ」
「じゃあ何してんだ」
「機体を作ってる」
その男は笑った。
「昔から変わらんな」
カイは鼻で笑った。
「レースは機体だ」
「まだ言ってんのか」
「事実だ」
「じゃあ、あいつに勝てなかったのも?」
工場の空気が止まった。
カイはゆっくり顔を上げた。
「帰れ」
「悪かったよ」
「帰れ」
男はそれ以上言わなかった。
州選手権の最終戦には、陽にさらされたような金髪の男の姿があった。多くの関係者に囲まれ、談笑している。
年間王者7回、通算84勝。サーキットの人気者。レオン・フロスト。
カイが12年間、一度も年間順位で超えられなかった男だ。
表彰式で、レオンはノアにトロフィーを渡し、二言三言話しかけ、笑った。ノアも笑った。それから何か思いついた顔で、ピットの隅にいるカイを指さした。レオンがこちらを見た。
カイは背を向けて工具箱を閉めた。
「おじさん、あの人が呼んでる」
「帰るぞ」
「知り合い?」
「知らん」
「嘘だ」
「機体を積め」
帰りのトラックで、ノアが言った。
「あの人、おじさんの名前知ってたよ。カイによろしくって」
「知ってるだろうな」
「なんで逃げたの」
「逃げてねえ」
カイは窓の外を見た。
技術なら負けていないと思っていた。
整備知識なら自分の方が上だった。
操縦技術も差はなかった。
だからカイは結論を出した。
機体だ。
レオンは良いスポンサーに恵まれた。
良いメカニックがいた。
良い部品が手に入った。
だから勝った。
それだけだと。
国内下位リーグの最終戦。ノアはランキング首位で、勝てば上位リーグへ昇格する。
残り3周。
前を走る2位、バーガー・ピークの機体が第4コーナーで姿勢を崩し、壁に叩きつけられて止まった。炉の異常で黒煙が上がる。
ノアは減速した。抜くための減速ではない。壁際の機体を見るための減速だった。
「何してる!」
「動いてない」
「コースマーシャルが来る! 行け!」
「でも煙が──」
3秒。
それだけで後続に2台抜かれた。
ノアは3位でゴールし、その年の昇格は消えた。
ピットでカイは怒鳴った。
「レースは人気投票じゃねえと言ったはずだ」
「死んでたかもしれないでしょ」
「お前が止まっても死ぬときは死ぬ。お前が止まれば、お前が負ける。それだけだ」
「じゃあ止まらない方がよかったの?」
「そうだ」
ノアは初めて笑わなかった。
言い返しもしなかった。
ヘルメットを作業台に置いて、ピットを出ていった。
翌日、バーガーのチームの整備士が工場に来た。バーガーは無事だった。整備士は不器用に礼を言い、カイは「礼はいらん」と追い返した。ノアは来なかった。
十日ほどして、ノアは戻ってきた。何事もなかったように床を掃いた。カイも何も言わなかった。ただその夜、カイは酒を飲まなかった。
翌年、ノアは昇格した。その次の年に国内王者になった。
ノアが18歳になった年。世界選手権への出場が決まった。
工場はもう、昔の面影がなかった。
最新の整備設備。
大手スポンサー。
専門スタッフ12人。
そして中央に置かれた、新型機。
世界でも5本の指に入る性能だった。
カイは、その機体を見つめていた。
「おじさん」
「なんだ」
「これ、速い?」
「速い」
「世界一?」
「機体だけならな」
ノアは笑った。
「じゃあ勝てるね」
「調子に乗るな」
カイは機体の外装を撫でた。
その時、ふと思った。
この車は誰が作った?
自分か。
違う。
冷却系は、あの自動車屋。
制御プログラムは大学。
スポンサー交渉はノア。
外装設計は昔のチームメイト。
輸送は物流会社。
資金は何十もの店と企業。
カイ一人では、この機体の10分の1も作れない。
そこで、ようやく思い出した。
レオンのピットは、いつも騒がしかった。
人が多かった。
レオンは整備士の名前を全員覚えていた。
スポンサーの家族の誕生日まで知っていた。
新人スタッフが失敗しても怒鳴らなかった。
負けた日には、観客席に残ってサインを書いた。
そして彼がタイトルを争う最終戦になると、普段別チームにいた人間まで手を貸しに来た。
カイはそれを、人気者だからだと思っていた。
違った。
レオンが、人を大切にしていたからだった。
「……そういうことか」
「何が?」
ノアが聞いた。
カイは答えなかった。
世界選手権最終戦。
ノアはポイントランキング2位。
勝てば年間王者。
2位以下なら敗北。
スタート前、機体にトラブルが起きた。
右後部の姿勢制御翼が動かない。
「交換!」
カイが叫んだ。
「予備がありません!」
「昨日届く予定だったやつは!」
「輸送事故でまだです!」
残り19分。
スタッフたちは青ざめた。
この部品がなければ走れない。
走れても、右コーナーで車体が吹き飛ぶ。
カイは拳を握った。
結局こうなる。
どれだけ努力しても、最後は機械だ。
部品がなければ終わる。
Dead end。
行き止まり。
その時、ピットに一人の男が飛び込んできた。
「これ使え!」
他チームの整備士だった。
手には姿勢制御翼。
「規格同じだ! 昨日リタイアしたうちの機体から外した!」
「なぜ」
「バーガーが使えってさ」
さらに別のメカニックが走ってきた。
「取り付け手伝うぞ!」
その後ろからスポンサー企業の技術者。
昔のレーサー。
町工場の親父。
カイが初めてもらった冷却器を作った男までいた。
「お前ら……」
「ぼさっとするな、カイ!」
「レース始まるぞ!」
人が集まった。ほんの10分で、壊れた機体が蘇っていく。
カイは立ち尽くした。
昔、1位のピットで見た光景と同じだった。レオンが強かった理由。
ようやく分かった。
あの男は一人で速かったんじゃない。誰よりも多くの人間と走っていた。
「カイ!」
声をかけられ、我に返った。
「最後のチェック!」
「ああ!」
カイは機体に潜り込んだ。数分後。ノアがコックピットに乗り込む。観客席から凄まじい歓声が聞こえた。
「おじさん」
「なんだ」
「緊張する」
「今更かよ」
「なんか名言言って」
カイは笑った。
「こういう時にちょうどいい言葉があったんだがな」
「誰の?」
「忘れた」
「ええ」
「だから代わりに俺が言う」
カイはノアのヘルメットを軽く叩いた。
「一人でゴールするな」
ノアが首を傾げた。
「どういう意味?」
「分からなくていい」
「またそれ?」
「行ってこい」
スタートシグナル。
12台の反重力車が一斉に浮上する。
3。
2。
1。
世界が爆発したような音とともに、車群が飛び出した。
ノアは走った。
町工場の冷却技術。
大学の制御システム。
スポンサーの資金。
仲間が取り付けた翼。
カイが積み上げた20年分の知識。
そして、自分を信じてくれた人間全員を乗せて。
最終周。
ノアは2位。
首位との差、1.2秒。
カイは通信機を握った。
「出力制限解除」
「壊れるよ」
「30秒ならもつ」
「本当に?」
「俺を誰だと思ってる」
少し沈黙したあと、ノアが笑った。
「万年2位」
「殺すぞ」
「帰ったらね」
出力計が赤を振り切る。機体が一度沈み、それから跳ねるように前へ出た。
第3コーナーで0.6秒。バックストレートで0.2秒。
右後部の翼──借り物の翼が、悲鳴のような音を通信機に乗せてくる。
最終コーナー。2台が並ぶ。機体同士の距離、10センチ。炉の温度が限界を越え、警告音がコックピットを埋め尽くす。
それでもノアはスロットルを戻さなかった。
ゴール。
差は、0.02秒。
ノア・アルヴァレス。
世界王者。
18歳。
史上最年少。
歓声の中、カイは一人、ピットの椅子に座った。酒が飲みたかった。しかし、不思議と今日は要らない気がした。
「カイ」
振り向く。金髪の男が立っていた。
「……レオン」
かつての世界王者は、昔と同じように笑っていた。
「今日は逃げないんだな」
「うるせえ」
「いいレーサー育てたな」
「俺が育てたんじゃない」
「そうか?」
カイはコースを見る。ノアは車を降りていた。スタッフに抱きつかれ、スポンサーに囲まれ、観客に手を振っている。相変わらず、誰にでも笑っていた。
「昔、お前がなんで俺より速かったか、やっと分かった」
レオンは少し黙った。
「遅かったな」
「ああ」
「20年くらい?」
「うるせえ」
カイは笑った。
「俺はずっと、勝負を決めるのは機体だと思ってた」
「違ったか?」
「いや」
カイは首を振った。
「合ってたよ」
最高の機体があれば勝てる。それは間違っていなかった。ただ、ひとつだけ知らなかった。
「最高の機体ってのは、一人じゃ作れない」
レオンは何も言わなかった。ただ笑った。遠くからノアが叫ぶ。
「おじさーん!」
カイが見る。
「一緒に来てよ!」
「どこに!」
「表彰台!」
「俺が乗る場所じゃねえ!」
「いいから!」
周囲のスタッフまで手招きしている。カイはため息をついた。
「面倒くせえな」
そう言いながら、立ち上がる。長い間、自分の前には道がないと思っていた。
2位で終わった時。引退した時。ひとりで工場に籠もった時。そこが人生の終点だと思っていた。
だが違った。
行き止まりというのは、本当に道が終わった場所じゃない。ひとりで進める道が終わった場所だ。その先に行きたいなら、誰かと行けばいい。カイは人混みの中へ歩いていった。